sugar spot
◻︎
「……、」
「…何してんの。」
お店まで会いに来た男に手を引かれて、それはもう笑えるくらい従順に家まで着いてきた私は、一度だけ足を踏み入れたことのあるその玄関で、今更立ち止まった。
先に靴を脱いで廊下を歩いていた男が、何かを察したように振り返ってそんな私に声をかける。
「Mステ、観たい。」
「だから録画してるって。」
何回言うんだと、どこか呆れたように伝えられて、今日感じていたことが、何故だかこんな厄介なタイミングで思い出されてしまった。
「…観たいって、私が言ったから、
此処に連れてきてくれただけ?」
「……は?」
「あんたは、私が居ても居なくても、
どっちでも良い?」
"好きなものを一緒に観たいのは、
できるだけ、一緒に居たいって思ってるのは、
私だけだったら、どうしよう。"
嗚呼、本当に面倒だ。
やっぱり、お酒を飲める自分なら
良かったかもしれない。
そしたらこんな。
相手に気持ちを態々確かめようとする
こんな自分。
酔ってるせいだって、言い訳が出来たのに。
俯いて自分のパンプスに視線を落としたら、瞼を熱く膨らませる原因が今にも溢れ出しそうになって、慌てて瞬きを繰り返す。
やっぱり怖さが胸に生まれて、「今の忘れて」と訂正してしまいたい気持ちにもなる。
『今の私や奈憂の感想みたいに、どういう風に有里君があんたの言葉を受け取るのか、何を思うのか、聞かないと分かんないでしょ。』
___だけど。
「面倒で、ごめん。
でも私、自分が好きだって思うことは、出来るだけあんたと共有したいというか。
その、時間がある時は、なるべく会いたいって思う派だから。
…こういうの嫌だったら、言って欲しい。」
声が、震えてしまった。
出来れば、同じ気持ちを抱いていてくれたら嬉しいけど。
もしそうじゃ無いとしても、
心の内を、見せて欲しい。
伝え終えて、何故こんな玄関先で勝負をかけてしまったのかと後悔が襲う。
ドアを開けて逃げ出したくなる衝動を、きゅ、と丸めた拳に力を込めて何とか耐えていると、自分を覆う影に気がついた。
顔を上げたら、近くで見下ろしてくるその表情には、不機嫌な色が濃く乗っている。
「……そんな嫌そうな顔しなくても。」
「嫌じゃなくて、呆れてる。」
その言葉を聞いた後、両方の頬を心地よい温度に包まれたのと、唇に熱を感じたのは、どちらが先だったのか、いまいち分からなかった。