sugar spot

◻︎


「……、」

「…何してんの。」


お店まで会いに来た男に手を引かれて、それはもう笑えるくらい従順に家まで着いてきた私は、一度だけ足を踏み入れたことのあるその玄関で、今更立ち止まった。


先に靴を脱いで廊下を歩いていた男が、何かを察したように振り返ってそんな私に声をかける。



「Mステ、観たい。」

「だから録画してるって。」


何回言うんだと、どこか呆れたように伝えられて、今日感じていたことが、何故だかこんな厄介なタイミングで思い出されてしまった。



「…観たいって、私が言ったから、
此処に連れてきてくれただけ?」

「……は?」

「あんたは、私が居ても居なくても、
どっちでも良い?」


"好きなものを一緒に観たいのは、
できるだけ、一緒に居たいって思ってるのは、
私だけだったら、どうしよう。"



嗚呼、本当に面倒だ。

やっぱり、お酒を飲める自分なら
良かったかもしれない。

そしたらこんな。

相手に気持ちを態々確かめようとする
こんな自分。

酔ってるせいだって、言い訳が出来たのに。




俯いて自分のパンプスに視線を落としたら、瞼を熱く膨らませる原因が今にも溢れ出しそうになって、慌てて瞬きを繰り返す。

やっぱり怖さが胸に生まれて、「今の忘れて」と訂正してしまいたい気持ちにもなる。


『今の私や奈憂の感想みたいに、どういう風に有里君があんたの言葉を受け取るのか、何を思うのか、聞かないと分かんないでしょ。』


___だけど。


「面倒で、ごめん。

でも私、自分が好きだって思うことは、出来るだけあんたと共有したいというか。
その、時間がある時は、なるべく会いたいって思う派だから。

…こういうの嫌だったら、言って欲しい。」



声が、震えてしまった。

出来れば、同じ気持ちを抱いていてくれたら嬉しいけど。

もしそうじゃ無いとしても、
心の内を、見せて欲しい。


伝え終えて、何故こんな玄関先で勝負をかけてしまったのかと後悔が襲う。

ドアを開けて逃げ出したくなる衝動を、きゅ、と丸めた拳に力を込めて何とか耐えていると、自分を覆う影に気がついた。


顔を上げたら、近くで見下ろしてくるその表情には、不機嫌な色が濃く乗っている。


「……そんな嫌そうな顔しなくても。」

「嫌じゃなくて、呆れてる。」


その言葉を聞いた後、両方の頬を心地よい温度に包まれたのと、唇に熱を感じたのは、どちらが先だったのか、いまいち分からなかった。

< 200 / 231 >

この作品をシェア

pagetop