sugar spot

◻︎


「有里〜〜〜久々〜!」

「…芦野。なんで。」

「こっちで打ち合わせあるの。今日もイケメンだね!」

「相変わらずだな。」

既にお昼を済ませていたのか、自席にいた男は突然の同期の登場に驚きつつ、能面の瞳を少しだけ緩ませた。

うどん屋さんからビルのフロアに戻って、天敵の席を紹介させていただいた私を放り出して、そう言いながら駆け寄る奈憂は凄く楽しそうだ。
というか私と再会した時もそのくらいテンション高く居て欲しかった。




「…あそこで変な顔してる奴、何。」

「あ〜うちのお馬鹿同期ちゃんね、有里の席とか分かんないから花緒に案内してもらった。」

「ふーん。」


……なんか、こっち見て喋ってる。

でも声のボリュームが下がって、会話はこの距離じゃ聞こえない。

奈憂は謎に親指を上へ立てて笑っている。
何がグーだ。

能面は、視線が交わった瞬間、当然逸らされた。
感じが悪すぎて、もはや怒りも湧いてこない。
いや、湧いてるけど。


「…相変わらず意地っ張りやってんだね。
君たち小学生なの?」

「……」

「あのねえ有里。
花緒は馬鹿だけど、思ったよりモテるよ?」

「…なんでそれ、俺に言うのか分からない。」

「そう。じゃあうちのビルで"梨木さん会いたい"って言ってるメンズ達、もれなく会わせようかなあ。」

「………」

「そーいう顔、どうして花緒に見せないの?」

「バレたくないからに決まってんだろ。」

「(……あ穂《ほ》高だ。)」




そうして私の元へ戻ってきた奈憂は、「前途多難なんだけど〜」と笑いつつ肩をぽんぽんと叩いてきた。

ちらり、目線をずらすと、真剣な能面の横顔が既にデスクへと向かっている。

「でもこんな楽しい案件、同じビルで観察したいよ〜」

「……今日、そんなに楽しい打ち合わせなの?」

「こっちもやっぱり馬鹿だった〜」

「何。これ絶対失礼なこと言われてる。」


そうだよ、とサラッと肯定した奈憂はそのまま会議室に向かって行った。
私の友人は、たまに意味が分からない。

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