sugar spot




この男に期待したのが、間違いだった。

もしかしてこうして残業に付き合うのも、
急な仕事のエピソードも、同期の私を"励ます"とか、
なんかそういう気持ち、入ってたりするのかも。


ほんの少しでもそう思ってしまった自分が
本っっっ当に馬鹿だ。

こいつは損得しか考えてない、能面男なのに。

手伝ってもらう申し訳なさを溢れるくらい抱えていたけど、なんかそんなもの吹っ飛びそうなくらいムカついてきた。


「あんたのことなんか助けないわ!
私も失敗するのはこれっきりだし、手伝わせてあげるのも今日だけだし、それでチャラだから!!」


「…お前、チャラの意味分かってる? 
馬鹿なの?知ってたけど。」

「うっさいわ!!」


そのままチラリと窓の外を確認したら、当然、空は真っ暗な闇に覆われているし、時間の経過の速さを物語っている。

「あんたの屁理屈に付き合ってたら朝になる…!!
サボってないで早くやってよ、今日中に仕上げて配送まで持って行きたいんだから。」


「お前、ほんとふざけんなよ。」


お互い、火花を確実に散らした睨み合いの後、また黙々と、顔を合わせることなく数時間の作業に明け暮れて、気まず過ぎる沈黙のままに帰宅した。





___その翌日の朝早く、こっそり配送前の
大量のカタログが積まれたスペースへ向かった。


「(………なんなの、完璧じゃん。)」

そこで、カタログの梱包された封筒に貼り付けられた、あの男が作ったPOP広告を確認した。

私の伝えた要望を網羅しつつ、デザイン性も兼ね備えたハイクオリティのものをあの短時間で仕上げていて、そういう抜かりない所にもまた、苛立ちが募る。
 


多分、お礼なんか言ったって
あの能面は絶対受け入れない。

そもそも全部、別に私のための行動じゃないし。


やっぱり天敵はどこまでいったって天敵だし、
交わることなんか無い。

そう再認識したら、カタログを握る手に力がこもったのは、全然、気のせいだと思う。





◇◆

【テーマ】
sugar spot (甘くなる目印)が
発見されるかどうか。

【研究回数】
2回目

【研究対象者】
梨木 花緒
有里 穂高

【研究結果】
▶︎すみません。

"夜中まで一緒に居た"くせに、
ずっと背中合わせで過ごしていて、
うまく観察できませんでした。

(でも多分どうせ、兆候無しです。)

◇◆


#2.「昨日の天敵は、今日も明日もずっと天敵」fin.

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