sugar spot



そして、冒頭の私の困惑に戻る。


「………え?」

「急で、ごめんね。」

「……いつから、ですか?」

声が、否応なしに震えてしまった。


「…まだ正式じゃないけど、一応夏頃の予定。」

「夏……」

もう本当に、たった数ヶ月先の話を
されているのだと、そこで初めて認識する。



「まだ途中の案件に関しては、引き継ぎは丁寧に確実にやらないと、大きな失敗に繋がる。

それに配属されたばっかりの梨木ちゃんは、まだまだ分からないことだらけなのに、不安にさせる。
…迷惑も、きっと沢山かける。

だから、残された時間で私は精一杯できる準備をしてから、異動したいとは思ってる。」



すぐ隣でそう語るちひろさんは、横顔でもその整った顔立ちがわかる。

だけど凛とした美しさは、彼女の言動にもよるのだと、私は配属されて一緒に過ごすたびに嫌というほどに知った。


企画部なんて、きっと大変に決まっている。

それなのに、この人は自分がいなくなった後の、
周りの人のことばかりを伝えてくる。


いつもまっすぐで、嘘がなくて、眩しい。


ちひろさんは、

___初めて出会った時から、何も変わらない。




< 52 / 231 >

この作品をシェア

pagetop