sugar spot
『梨木ちゃん。
そういう時、本当に同期はかけがえのない存在だよ。
有里君のこと、大事にして、助け合ってね。』
そうちひろさんに言われた時、尋ねようとしてギリギリで飲み込んだ筈の言葉が、アルコールで弱った思考を待っていたかのように脳内に入り込んで、ぐるぐる勢いよく巡っている。
____”向こうに、その気が、全く無くてもですか?”
「……なんの涙なの、これ。」
そのまま席に戻るわけにもいかず、一度お店の外に出た瞬間、堰を切ったように溢れた涙で、アスファルトには連続してシミが出来ていた。
まるで安っぽい雑な塗装が剝がされていくように易々と暴かれる自分の心に、私が一番気が付きたくない。
"というか、花緒はいつの間にアーリーとそんな険悪になったの本当。
研修の最初からそうじゃ無かったでしょ?"
"……知らない。"
以前の奈憂からの問いかけも、
同時に思い出してしまった。
"何を機に"、なのか思い当たる節は無い。
"いつから"なのかは、考えるのをやめた。
____もう、あの男のことで
これ以上、感情が揺れるのは懲り懲りだ。
◇◆
【テーマ】
sugar spot (甘くなる目印)が
発見されるかどうか。
【研究回数】
3回目
【研究対象者】
梨木 花緒
有里 穂高
【研究結果】
▶︎『相手に嫌われている』
という認識をお互いに拗らせ過ぎて、
お話になりません。
観察の仕様がありません。
この研究、成果は絶望的な気がしてきています。
◇◆
#3.「汝の天敵は、愛せない」fin.
「花緒も拗らせてますけど、
アーリーもほんと阿保なんです。
花緒がお酒頑張って飲んでるって言ったら、
残業で疲れてても、
こういう集まりが苦手でも、
今日みたいに無理して絶対来るくせに。」
"奈憂。これはもう、アレにかけるしかないわ。"
「……アレ?」
"夏の展示会。何かしらの波乱、あるかもよ。"
「島谷さん、楽しそうですね。」