sugar spot




この男とこういう無駄なやりとりするの、
もう何回目なんだろう。

こんなんじゃ伝えたいことがあっても
伝えられる訳がない。


気付かれないように小さく息を溢したら、

「…曲、みた?」

「……え?あ、うん。」


ソファのすぐ傍の柱に背中を預けて、缶コーヒーを飲みつつ呟かれた言葉は一瞬、全然こっちも見ないから、独り言かと思ってしまった。

「……あの曲知ってんの。」

「当たり前でしょ!?
ライブだとちょっと2番のサビのメロディが転調するのが凄い好きで毎回泣く、!」


知ってるに決まってるだろ!と気持ちが昂ったせいでペラペラとオタクを発揮してしまった。


自分の興奮具合にそこまで告げてから気付いて、急に恥ずかしくなってしまう。


…これは、馬鹿にされる。


向けられてる視線にいたたまれなくなって、顔を背けていると「お前から、送られてきてないけど。」と感情の読みにくい声が落ちてきた。


「…え?」

「何、もう知ってる曲終わった?」

「そんな訳ないでしょ!!山程あるわ!」

「じゃあ送れよ。」


なんだこいつ!

まさに売り言葉に買い言葉。
再びトーク画面を開いた私は、さほど確認もせず怒りに任せてずっと押せなかった筈の「送信」ボタンを押した。


「これ私すっごい好きで……有里?」

送りつけた曲について解説しようとしたら、
何故だか男はスマホを見たまま、少し目をまじろいでいた。


え、なに。

不思議に思い、今しがた送りつけたものを
自分の画面でも確認する。



《私は◇◇。

で、土曜日はどうするの。》


「っ、!!」


まずい。

2文目を消すのを忘れていた。


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