拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
「今日はそろそろ帰りなさい。酔ってきたね」

相変わらずお酒が弱いねえ・・と言いながら、私のグラスを下げようとする。
あわてて、最後までの飲み切り、お会計をするために立ち上がると、足がフラつき、カウンターに片手をついた。
危ない・・。そこまで酔ってる気はしていなかったが、足にきたか。
やっぱり田中さんてすごい。たくさんのお客様と接しているせいか、人の顔色で酔っ払い具合がわかるのだろう。

「ご馳走様でした」

「うん。気を付けて。お迎えは?」

「お迎え?そんなのないですよ」

じゃあ、また、と言ってお店のドアに手をかけると、ちょっとまって、と、田中さんが急ぎ気味でカウンターから出てきた。

「一人で帰るの?」

「・・・はい、そうですけど?」

「いつも迎えに来てる、あの子は?」

「・・・いつも迎えに来ている人なんていませんけど・・・」

「・・・・・・もう遅いから、タクシーで帰って」

「わかりました」

「着いたら連絡して。これ俺のアドレス」

名刺を渡されてみると、有名な商社の社名が書いてある。下に携帯番号とメールアドレスが書いてある。

「へえ。田中さんてM商社にお勤めなんですね」

「うん。約束して。家着いたら連絡ね」

「はいはい。じゃあ、おやすみなさい」

前も似たようなことはあったが、今日は特に心配症だ。
いつも迎えに来ている人って・・浦橋くんのことだろうか。確かに以前は飲んでる日は必ず待ち合わせして送ってくれていた。しかしそれをまさか田中さんが知っていたとは意外だった。

それにしてもM商社とは・・・・忙しいだろうに、よく夜も働けていると感心する。
少し前に以前マスターが忙しい時は全然お店に来れない時期もある、と言っていたことがあった。出張などが入ればそうなるだろう。
かっちゃんがいると女性客が喜ぶからな、と苦笑いしていた。

約束どおり、つきました、とメールを送ると、すぐに、返信がきて、これは会社のアドレスだからプライベートはこっちに、とID番号が送られてきた。
早速登録してメッセージを送っておいてから、早々に寝る支度をする。お酒のおかげで何も考えずに眠れそうだ。
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