不純異性交際 -瀬川の場合-
学校訪問
結局その夜も、次の日も…またその次の日も、私たちは言葉を交わさなかった。
大晦日を迎え、私は1人で暗い気持ちのまま新年を迎えてしまった。
0時を過ぎたパソコンの時計を見つめ、”まぁ…誕生日とか年越しとか、イベントにこだわる歳でもないか…”と自分に言い聞かせるように考えながら、ソファで眠りについた。
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目が覚めて携帯を確認すると、バラ組のほかにも数件のメッセージが入っていた。
この仕事部屋はとても静かで、エアコンからの暖かい風の音だけがかすかに聞こえる。私はブランケットに全身くるまれ、新年早々むなしい気持ちで佇んでいた。
ブランケットを肩に巻きつけたまま、キッチンへ向かう。リビングを通るとフミはソファに寝転び、正月の特番を見ていた。私には目もくれず、テレビに映るお笑い芸人の言動に時折ふふっと笑う。
歩み寄る気持ちは数日前の口論で今度こそゼロになってしまった。お互いがそこに存在しないかのように振る舞い、それに対しての疑問も持たなくなっていく。
温かいチャイティーを淹れ仕事部屋に戻ってくると、カーテンが閉ざされた薄暗い室内で携帯が光っている。
瀬川くんからの不在着信だ。すぐに折り返すと、キャンプ以来の彼の声が耳を優しく包む。
「もしもし?明けましておめでとう。」
「明けましておめでとう!」
口にすると初めて、年が明けたことを実感した。
瀬川くんはこっちに帰省していて、同級生の男グループで初詣を済ませ、これから飲みに行くらしかった。
「お前は?どうしてる?」
「…1人で仕事部屋(笑)もう少しで終わりそうだから、そしたら紗奈にでも連絡してみようかなって」
「そっか。……あ!仕事といえばさ。今度俺の勤め先で、誘致イベントをやるんだよ」
「誘致イベント?中学校で?」
「そう。田舎だから…町の移住支援内容とか環境とか、町のことを丸ごとPRするような感じ。そのために配布用のリーフレットを作るんだけど…お前、そういうの出来たりする?」
「??…うん、リーフレットはよく依頼もらうけど」
いまいち状況がつかめずに答える。
「うちの校長が、町おこし協力隊の会長なんだよね。もし請け負ってもらえるなら、挨拶がてら一度学校に来ないか?」
「えっ…私が?」
「校長が俺のこと当てにして、若いから作れるだろうって(笑)俺は無理って言ったんだけど、誰かいないかって話になってさ。お前どうかなって」
「…やる!すぐにでも挨拶に行くよ。嬉しいな!」
考えるよりも先に返事をする。
仕事がもらえる事はもちろんありがたいけれど、瀬川くんの住む町のことや学校を拝見できるなんて…とてもワクワクしてしまう。