不純異性交際 -瀬川の場合-

ふたたび目が覚めると、周囲はぼんやりと薄明るくなっていた。

瀬川くんとシュウトの間で眠っていた私は、2人を起こさぬようそっとブランケットから抜け出すとテントの外へ出てみる。まだ陽は出ていないものの、朝が来る前の静けさとキンと冷える空気が充満していた。

紗奈の様子を見にもう片方のテントを覗くと彼女はすでに起きていて、「おはよ」とあくびをしている。

「おはよ~、なんか温かいもの飲みたいね。炊事場いく?」

「そだね!…いやぁ、マジで寒いねぇ~」


お湯を沸かしてハーブティを淹れると、私たちの吐く息よりも白い湯気が立ち上がる。私はふんわりと大きく漂っては消えていくそれを見つめていた。



ぽつぽつと起き始める仲間たちがやって来ると、いつの間にか朝陽が差し込んでいる。

朝食に昨日私たちが作ったカレーをみんなで食べ始めるとすぐに、

「うまいっしょ?!俺が作ったカレー♪」
自慢気にコウヘイ君が言う。

「あんたはニンジン切っただけだけどね(笑)」
と紗奈が笑い、みんなも笑う。


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「みんな、参加してくれてありがとう!次は春頃にまたここへ来たいと考えてたんですけど、夏でも面白そうっすね。また告知しますので、よろしくです!では…帰りは車ごとに自由解散ということで。皆様、よいお年を!」

平野が挨拶し、みんなで年末の挨拶を交わすとそれぞれが車に乗り込む。


近くにいた瀬川くんがさりげなく近づいてきて、「また連絡する」と小さな声で私に言う。「うん…!」私が答えると瀬川くんも車に乗り込んでいった。


サッちゃん親子と紗奈を乗せて、私はそっとアクセルを踏む。


…考えてみれば私はこの1ヶ月と少しの期間で、2度も3度も瀬川くんとキスをし、すっかり泥沼に嵌っているように思える。お互いに伴侶がいてもなお、歯止めが効かなくなっている自分たちが怖い。

これからどうなっていくんだろう。そもそも、この関係に答えを出す必要はあるのだろうか。

…分からない。

家庭を壊す気などなくても、現に私たちは…恋人同士のように抱き合い、キスをしている。



後部座席でシュウトとサッちゃんが眠っているのを確認する。

「ねぇ、紗奈…。私、答えが出せるか分からない…」




紗奈はとても長く感じる沈黙の後で

「…無理に答えを出そうとしなくても、時間は進んでいくからね。良くも悪くも、いつか答えは出る。…と思う。誰かじゃなくて、ミライはどうしたいの?」

と、ゆっくり答える。


「私は……---」





今夜は久しぶりに、フミと向かい合って夕食をとっている。約束していたわけでもないし、たまたまタイミングが合っただけ。

酢豚を箸でつつきながら、もう片方の手には携帯を持っているフミ。当然のように会話はない。私を見ることも無いし、そもそも私の存在自体を気にする様子がない。

私がこうしてフミを見据えている事も、彼には知る由もない。


少しの緊張で鼓動が早まり、私は生唾を飲む。

「ねぇ・・・。」

「・・・・・・ん?」

携帯をいじりながら、随分と長い沈黙のあとフミは声を発した。


「今の私たちってどう見えているんだろう、会話も少ないし…。もうずっと、エッチとかも…してないよね。」


フミは一瞬驚いたような顔をして私の手元まで目線を上げたが、目を見てくれることは無かった。


「そういえば最近してないね。そんなつもりなかったけど、いつの間に毎日が過ぎちゃうんだよね」

すぐにまた携帯を弄りながら、気にも止めない様子で答える。


…最近?
…そんなつもりはない?
2年以上もしていなくて、よくそんな事が平気で言えるものだと逆に感心してしまう。

しかし、妻として歩み寄らなくなっていた私にも問題はあるだろうと思い直す。


「最近っていうか…もう2年以上してないよね?」

「仕事部屋にこもっててベッドに来ないのはミライじゃん」

「それはつい最近の話でしょ…?!」


「…つまり何が言いたいの?」

フミが不機嫌そうに私を見る。



「なにって…。このままでいいのかなって…」
私はずっと手に持ったままだった箸を置く。


フミは、ふっと鼻で笑ったかと思うと、
「…なに。セックスしたいって話?遠回し過ぎてビックリなんだけど」
片方の口角を上げ、小馬鹿にしたような嫌な顔をする。


鼓動が早くなり、苛立ちと虚しさでいっぱいになる。心臓が破裂しそうだ。


「ーーー…そうじゃないっ…!!!」

私は近くにあった小さなクッションをフミに投げつけ、バタバタと仕事部屋へ駆け込んだ。


ギリギリのところで保たれていた私の自尊心が、ゆっくりと崩れていく。

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