僕等はきっと、満たされない。

後ろから宙くんに抱きしめられた



「ん…?どーしたの?」





泣いてないよ



「ん?ちょっと寒かった」



「早く春になるといいね」



「もぉ、すぐかな…
でも、オレは冬も好き」



背中が宙くんで温かかった


今年の冬は

宙くんが一緒にいてくれたから

去年より寒くなかった気がする



去年の冬は

まだ宙くんに出会ってなくて

まだあの人を想ってよく泣いてた



「冬の京都は寒いの?」



「うん、寒いよ
こっちの寒さとは違うけど…

晴夏も京都行きたい?」



「ん?
んーん…私は行かなくていい」



あの人が亡くなった場所



あの人がいない京都には

行く意味がない



「宙くんは海外でも仕事してみたいとか
思ったりする?」



「うん、思ったりするけど…」



「行かないの?」



宙くんと一緒に映画を観た時

海外はスケールが違うって
宙くんは言ってた


先輩が海外で映像の勉強してるって
羨ましそうに言ってた



「うん
オレは、大切な人、置いてく勇気ない」



「大切な人…?
宙くんの、大切な人?」



私が見てる宙くんは

仕事が好きで

いつも真剣で

それよりも大切な人っているのかな?



「うん…

晴夏
さっき気にしないで…って言ったけど
聞いてほしい

オレ、晴夏のことが心配なんだ

だから
ひとりにしたくない

晴夏はずっと
前の人を好きでいてもいいから…

忘れなくていいから…

オレ
晴夏が好きなんだ…

大切なんだ、晴夏が…

ただ、それだけ…
気にしないで…」



え…



晴夏が好きなんだ…

ただ、それだけ…

気にしないで…



宙くんは

簡単そうに言ったけど

私には

簡単に理解できなかった



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