愛してしまったので離婚してください
『でも、君を知っていくと、思いのほか不器用で、ほかの誰かの事ばかり考えて自分を犠牲にしてしまうところがあるって知って、どんどん放っておけなくなった。俺が守りたい。そう思った。』

『俺のことを気遣って、毎晩ベッドのない部屋で寝ている君を想像しただけで、心が苦しいのに、同時に愛おしかった。』
スピーカーから雅のふっと微笑む声が聞こえてくる。

『こんなに時間をかけちゃうなんて、俺も相当不器用なんだけどな。』
確かにそうだ。

きっと私たちは似たもの同志で、お互いを想うばかり遠慮して、踏み込むことに躊躇して時間ばかりをかけてしまって来たんだ。

『晶ののこしていった離婚届をみた時、ニューヨークの晶の担当医から話を聞いたとき、何かで頭を殴られたような衝撃だった。人生ではじめてだ。こんなに後悔して、自分が嫌になったの。』
少し曇る声が、離れていたこの1か月の雅の苦悩をあわらしていた。
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