エリート外交官の激愛~秘密の一夜で身ごもった子ごと愛されています~
『自分に過ちがないのに謝るな。日本人の悪い癖だ。特に海外では、なめられて交渉が不利になる。新米であっても森尾は外交官に違いない。国を背負っているのだという自覚を持って、できるだけ堂々とふるまえ』

彼にそう指導されたことがある。

(もしこの場に布施さんがいたら、叱られそう)

それでもいいから、彼の声が聞きたくなった。

一瞬でも、遠目でもいいから顔が見たい……そのような気持ちが湧いて、瑞希の胸が痛む。

(ダメ。なんのために、苦労して入った外務省を辞めたと思っているのよ)

瑞希は大学でフランス文化人類学を専攻していた。

それがよかったのか、ノンキャリアではあるが憧れの外務省の厳しい採用試験を突破したのは、七年ほど前のことである。

国内で一年、フランスで二年の研修を積み、外交官として夢の舞台で働いていたのだが、出産のひと月前に退職した。

布施には、子供ができたと告げていない。

交際もしていない一夜限りの関係の彼には、言えなかった。

堕ろしてくれと言われそうな気がしたことと罪悪感、それらが理由である。

なによりも、あの夜は瑞希から強引に誘ったようなものだから。

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