愛しの鳥籠〜独占欲は凶器篇〜
「ユキ先輩って、カノジョいるんですね。ちょっとショックですぅ。
実はユキ先輩のこと、密かに狙っていたんですよ?愛梨沙」
大津には聞こえないように耳うちしてきた。
僕は何も応えなかった。
ただただ、この女への殺意を抑えるので精一杯で。
「あっ、そぉだっ!今度お食事に行きませんか?愛梨沙と孝宏先輩とユキ先輩と、ユキ先輩のカノジョさんの4人でっ」
「…は?」
「それいい!それいいよ!愛梨沙ちゃん!!是非行こうっ!」
僕とは正反対の反応を見せた大津。
「決まりですねっ!」
愛梨沙と大津はその勢いで日時やオススメの店とかを話し合い始めている。
「…絶対、嫌なんだけど?」
低い声音でそんなふたりに水をさしたのは僕。
だがーー、
「先輩が断ったら、愛梨沙と孝宏先輩共々ここ辞めますよ?」
愛梨沙が意地悪く笑った。
「ホール回しているの愛梨沙たち3人だけなのに2人が同時に辞めたら困りますよね?」
…いい加減キレそうなんだが。
「辞めたきゃ勝手に辞めーー」
「行ってきたらどうだい?ユキ」
僕の言葉を遮ったのは、マスターの穏やかな声。
「…マスター?」
訝(いぶか)しげにマスターに話しかければ、
「キミが人との付き合いを嫌う性格なのはわかってるつもりだ。けど、可愛い後輩がここまで言ってくれてるんだ。最初で最後だと思って彼女さんと楽しんできたらいいじゃないか」
「…ハァ、わかりましたーー」
そんなマスターの言葉に僕は折れざるを得なかった。
けれど、
「ーーただ、彼女が少しでも嫌がったら絶対行きませんし、その事でお前らがここ辞める気でいるなら勝手に辞めろ」
最後、語気を強めて言えば、大津と愛梨沙はゴクリと生唾を飲んだ。
ランは僕以上に他人との接触を嫌う。
絶対に「行く」とは言わないだろう。