社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 知人のいない土地で、アパートを決め、私を育てたことに、後悔はないというように、似たような家を選んでいた。
 二人は幸せだったのだ。

「要人……。ありがとう。調べてくれたんでしょ?」
「ああ。でも、これは俺のためでもあったからな」
「要人のため?」
「俺は倉地(くらち)のおじさんとおばさんがいなかったら、家族がどんなものなのか知らずに育ったと思う。俺にとって、理想の家族は志茉の家だ」

 私たちは並んで家を眺めながら、過去を思い出す。

「うん……。私もそう。お父さんとお母さんみたいな夫婦になりたい」
「きっとなれる」

 私はうなずいた。
 ずっと一緒に育ってきた私たちが知る幸せ。
 それは、両親が私と要人に遺してくれたものだ。

「志茉。中へ入ろう」

 玄関のガラス戸を開けると、新しい畳のいい香りがした。
 中はリフォーム済みらしく、一階のリビングには薪ストーブがあり、二階部分まで吹き抜けになっている。
 太い立派な梁が見えた。

「煙の匂いがするから、先に風呂に入ってくる」
「そうね。私は近くのコンビニで日用品を揃えてくるわ」
「ああ。それなら、買ってある」
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