社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 時々、農業体験や田舎暮らしのイベントに、一人で出かけている。
 いずれ、出勤可能な範囲で、自然の多い静かな場所に引っ越すつもりでいた。
 今、住んでいるアパートは老朽化しており、長く住めない。
 両親の思い出が残っているため、アパートがなくなるまではと思い、暮らしている。
 でも、あのアパートを出たら、きっと私と要人の関係は変わってしまう。
 お隣の幼馴染でいられなくなって、今みたいに気軽にやって来なくなる――

「田舎に行きたいなんて、おばあちゃんじゃあるまいし」
「癒されるの。去年、田植え体験と稲刈り体験にも行ってきたわよ。恵衣もどう? 収穫したお米がもらえるんだから!」

 イキイキと語る私を見て、恵衣は呆れていた。

「行かないわよ。休みはエステにネイル、ショッピング。もう予定ぎっしりなの! だいたいあんなイケメンの幼馴染がいて、よくそこまで、厭世的(えんせいてき)になれるわね。あたしなら、ぜったい要人さんと付き合うわ」
「恵衣。私と要人は恋愛関係じゃないの。幼馴染よ」
「なに言ってるのよ。要人さんは志茉が好きでしょ? あたしから見てもわかるわよ」
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