社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「要人は私じゃなくてもいいの。放って置いても女の人が、たくさん寄ってくるし」

 だいたい要人は仁礼木家のお坊ちゃま。私とは住む世界が違う。
 古いアパートに住み、身よりのない私なんて、要人の両親が許さない。
 仁礼木の家が要人に、家に相応しい女性と付き合うよう言っていることも知っている。

「あの顔よ!? そんなの当然、言い寄ってくる人は多いでしょ。けど、要人さんは志茉に懐いてるんだから」
「そうね。小学生の頃から、お母さんたちまで魅了するくらいには寄って来るわ」
「なにその、武勇伝」
「懐いてるのは否定しないけど、冷静に現状を分析するなら、隣の家に住む大型犬(ブルジョア)を餌付けしてしまっただけなのよ」
 
 年齢を重ねるほど、世間と常識を知って、私たちの距離は遠くなる。
 こんなに一緒にいるのに、なにもかも捨てて私たちが近づけたのは、一度だけ。
 窓の外に目をやれば、桜の花が目に入る。
 私の人生は、日々同じことの繰り返しで、来年も再来年も一人でこうやって、桜の花を眺めてる姿を容易に想像できた。
 自分で作ったお弁当に視線を落とし、黙々と口に運ぶ。
 
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