純愛
「司書さんからは、なんて?」

訊いた俺に、カンナは悲しい表情で言った。

「しばらくは図書室の利用は禁止にするって…。話して、私がやったんじゃないって信じてくれたけど、この問題が解決するまでは、また同じことが起こったらいけないからって…。」

「そう…。」

司書教諭の判断は間違っていないと思う。カンナが信じてもらえたのも、普段から図書室を利用していて、コミニュケーションも取っている。カンナがどういう生徒で、どれだけ本を好きか、伝わっていたはずだ。
それでも、カンナに向けられた何なのか分からない感情が、本に向けられたのは間違いなく悪意だろう。それを司書教諭も図書委員も見過ごしてはおけないだろう。カンナが信じてもらえたことが、せめてもの救いだ。

「カンナ、しばらくは一人で行動しないで。学校に居る時も、家に帰ってからも外出するなら絶対に俺を呼んで。」

「そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ。」

カンナはそう言ったけれど、その瞳は不安そうに揺れているのが分かった。

「駄目。約束して。」

強く言った俺に、カンナは何も言わないまま、ゆっくりとまばたきをした。

「コンコン、失礼しまーす。」

間延びした声が聞こえて、ドアの方を見ると、つばきが立っていた。俺が教室から出る時はクラスメイトと話していて、俺の方なんて見ていなかったと思うのに、どうしてここに居ることが分かったんだろう。

コンコン、とドアをノックする仕草をしながら、ニコニコ笑っている。白い肌に、リップでも塗っているのか、唇がやけに赤く見えた。やっぱり童話に出てくるお姫様みたいで、この手の中にある童話は別の物だけど、背中から嫌な物が這いずってくる感覚になって、俺はつばきを見ていられなかった。

「ドア開けっぱなしだと、お話、丸聞こえだよ。」

つばきがニコニコ笑いながら、空き教室の中に入ってくる。
俺はつばきを見れない。カンナはつばきを見て「ここに居るって、よく分かったね。」と言った。

つばきは「幼馴染だもん。何でもお見通しだよ。」って笑った。
その笑顔や言葉が、俺の不安を増長させていく。
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