純愛
広げたら結構な量があった食べ物も、喋りながら食べていたら、案外苦もなく食べ終わっていた。いつもと同じようにつばきをお世話する様な役回りをしていても、夏祭りという雰囲気に俺やカンナだって本当はハシャいでいた。
三人で来れたことに。こうやってまた笑い合えたことに。

「つばき、りんご飴買わないの?」

カンナがペットボトルのお茶を飲みながら言った。さすがのつばきも「お腹いっぱい。」とお腹をさすっている。

「うん。もう少し後に買おうかな。今買ったら飴が溶けちゃうもん。」

「そっか。」

グラウンドの中央に組まれた櫓ではイベントが始まっている。のど自慢大会とか、婦人会の合唱とか、ダンスを踊ったり楽器を演奏したり、日頃の主張を叫んだり…。夏祭りは普段の地元の町とは思えないほど、賑わって活気づいていた。

グラウンドの隅の方では手持ち花火をしている子供達も居る。何人か、高校は離れてしまった同級生とも会った。小さい町に住んでいるから、学校が離れても久しぶりっていう感覚は無いけれど、こういう場所で会うと、いつもと違うテンションにもなっていて、世間話も盛り上がった。

「ねぇ、金魚すくいやりたい。」

つばきがスッと立ち上がって言った。

「金魚、好きだったっけ?」

カンナがつばきを見上げながら言った。

「別に、好きってわけじゃないけど。金魚すくいなんてこういう時しか出来ないでしょ。」

振り返ったつばきは笑っている。屋台の提灯とか、櫓の周りの電飾がつばきの顔を微かに照らして、ちょっと幻想的だなと思った。
歩き出したつばきを追って、俺とカンナも立ち上がった。

金魚すくいの桶の中にはまだ結構金魚が残っていて、余った金魚はどうするんだろうなんて思った。

一回三百円。つばきが五百円玉をおじさんに渡して、二百円受け取った。俺とカンナもせっかくだしと、三百円ずつ渡した。
おじさんから金魚すくいのポイを受け取る。針金に薄い半紙の様な紙が貼られているタイプだ。

「どれ狙うの?」

カンナがつばきの横にしゃがんだ。つばきはどれにするか品定めする様に金魚が入った桶を眺めている。俺もカンナの横にしゃがんで金魚を見た。

「出目金は嫌。黒いのも嫌。可愛くないもん。やっぱり赤いのがいいな。」

赤、と思って、俺はそっとつばきを見た。つばきの言う「赤」には過剰に反応してしまう。つばきには他意は無いみたいだったけれど。

「んー。じゃあ赤くて小さいのにしようよ。小さい方がなんか可愛いし。」

「うん!」

カンナの言うことに、つばきは嬉しそうに笑う。

「よーし!いっぱい取るぞー!」

つばきが張り切ってポイをクルクル回して見せた。

「せーのっ!」

俺とカンナも、つばきの掛け声と同時にポイを水につける。ちゃぷん、と水に浸かった半紙は透明な紙みたいになって、金魚に触れて掬い上げると同時に、破けて水に揺蕩った。
< 38 / 100 >

この作品をシェア

pagetop