純愛
「ごめんなさい…。」

そう言ったつばきの声は、泣いている。

「ごめんなさい。私だってずっと一緒に居たのに、なんで自分は特別に選ばれないんだろうって思ったら感情がグチャグチャになっちゃったの。やっていいことと悪いことが分かってないわけじゃないんだよ。でも…自分を止められなかった。一人になることが怖くて…悔しくて…。」

震えるつばきの声が、荒んでいた俺の気持ちをシン、とさせた。

「つばき。本当に反省してるか?俺はお前がカンナにしたことや、俺の前で見せた態度とか言葉を綺麗に忘れたり、全部をすぐに許すことは出来ないと思う。それでもお前がまた三人で一緒に居たいって思ってくれるのなら、俺達だってつばきと一緒に居たいよ。」

カンナが俺の言葉に頷いて、つばきは俺を見て目元を拭った。辺りは暗い。雑木林の向こうでチラチラと見えていた灯りも、今はほとんどが消えている。つばきの涙は見えなかった。

「私、二人が居ないなんて嫌だよ。許してくれなくてもいい。私がやってしまったことはもう取り消せないから。」

「つばきが私達と一緒に居たいって思ってくれてる気持ちだけでいいんだよ。その気持ちだけで、私達は絶対、元に戻れるから。」

カンナが同意を求める様に俺を見た。俺も頷いて応えて、「我が儘も減らせよ。」って、つばきに笑いかけた。つばきはまた泣いているのか俯いたまま「我が儘なんて言ってないもん。」と呟いた。

「あー。良かった。つばきとちゃんと話せて。このまま夏休みが終わってたらと思うと…、考えたくないね。」

カンナが船着場で小さい波に揺れる船を見ながら背伸びをして、ふっと肩の力を抜くみたいな仕草をした。

「ごめんね、カンナちゃん。もうカンナちゃんが悩まなくていいようにちゃんとするから。」

そう言って、つばきは金魚の入っている袋を海の方に掲げた。少しだけの、雑木林の向こうの灯りがキラキラと金魚を、ほんの少し照らした。

「綺麗だね。」

三匹の泳ぐ金魚を見てつばきが言う。カンナが頷く。そんな二人を、俺はそっと見つめていた。
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