もふもふになっちゃった私ののんびり生活 ~番外編

 うううう。もふもふ、怖い。もふもふ、気持ちいけど、確かに私もするのは大好きだけどっ!!でも、適度にほどほどに、マナーを守ってもふもふしましょう!!というスローガンを掲げたい!

 そう思いつつも、数日前に、大きなヴィクトルさんを全身でもふり倒したのは、ハイ、わたくしです……。ううう。

 前に自分がもふもふされた時に控えめにしよう、って思ったのに。ヴィクトルさんの魅惑のもふもふの巨体の前にはそんな決意は一瞬で溶けて行き、気づくと胸元のふっかふかな毛並みに顔を埋めてスーハーしていたのだ。
 さすがにその時はヴィクトルさんもかなり動揺してもだもだ身もだえていたが、目の前のもふもふに夢中で気にもしなかったという……。

 自分がやられて嫌なことは人にやってはいけない、って思うのに、ついつい吹き飛んじゃうんだよね……。それを思えば、アイリちゃんとおばあさんが私のもふもふに夢中になるのも……仕方ない、仕方ないんだけど!

 だって毎日きっちりブラッシングしている尻尾は自分ながら素晴らしいもふもふ具合なのだから!

「キューーー……。クゥ……」

 ふう、とため息を吐き出し、一しきり落ち込んで動転した気も収まって来ると、周囲に漂うすえた臭いに気づく。
 そろそろと木箱の影から頭を伸ばして見回すと、周囲の建物はあちこち崩れ落ちており、道のあちこちには腐った食べ物や木くずなどのゴミが散乱していた。

 うわっ……。この街に、こんな場所もあったんだ……。最初にヴィクトルさんに案内して貰って街をくまなく探索したと思ってたけど、こういう裏の部分は恐らくヴィクトルさんが見せないように誘導していたんだろうな……。

 確かに幼い子供に見せるような場所ではないだろうが、私には大人だった記憶がある。なのでここが所謂スラム街なのだろうことは予測が出来た。そしてここで私が見つかると、ひどく魅力的に見えてしまうだろうことも。

 まあ、空を駆ければすぐに店に戻れるだろうけど、今更だけど目立つよね……。

 まだ全長一メートルもないが、年々白っぽい灰色のような毛並みは白銀に輝く毛並みへと艶と輝きを帯びて行っている。それに空を駆けると体長と同じ長さの長い尻尾がたなびくから、かなり目立つ気がしている。

 でも、どれくらいの距離を駆けたか覚えはないけど、店まで匂いを辿ってポテポテ歩いていてもそれはそれでかなり目立つ気がする。かといって服もないから、ここで人化する訳にもいかない。それこそ痴女だ。

 まあ、空を駆けるのは最終手段、だよね。とりあえずはここがどこか確認する為にもこの路地から出よう。

 立ち上がり木箱の影から出てそろそろと恐る恐る歩き出すと、暗がりの奥からこちらへ向かって来る足音が響き、ビクっと飛び上がってしまった。

 ど、どうしよう……。隠れた方がいいかな?獣姿だし、知らん顔して歩いて行けばいい?私を捕まえようとしたら、その時に逃げても遅くないよね……?

 ついウロウロとしていると、すぐ傍で足音が止まった。
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