離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く


 カタンという小さな物音で目が覚めた。時計を見ると時刻は朝六時。昨日はあのままソファで寝落ちしてしまったらしく、腰と肩が痛い。

 大きく伸びをしたが眠くてすぐに起き上がれない。だらだらとしていたら隣から慶次さんが出す音が、ごくわずかに聞こえてきた。

 帰ってきてたんだ。あたり前か、今は隣が彼の部屋なのだから。

 話をしたいと思っていたけれど、さすがにこの時間は非常識だ。その上こんな寝起きの恰好で彼に会うわけにはいかない。

 ソファに横になったままで耳を澄ませる。彼が引っ越してくるまではなかった生活音。他人のものならば気になり不快感を覚えることもあるのに、慶次さんだと心地よいと思ってしまう。

 正直言ってずっと誰かと暮らしてきたわたしにとって、ひとり暮らしは不安でいっぱいだった。だからこうやって隣から慶次さんがいる気配を感じるだけで、ホッとした。

 これではまたわたしの自立への道が遠のいてしまう。でも、それでも……やっぱり隣に彼がいると思うと心強い。

 心の中で葛藤していると、うとうとしてきた。すると枕元でアラームが鳴り、慌てて飛び起きる。
 昨日みたいになるところだった!

 わたしはソファから起き上がると顔を洗い、お弁当の用意を始めた。隣の扉が閉じる音が聞こえ、時計を見ると慶次さんがいつも仕事に向かう時刻だ。

「いってらっしゃい」

 思わず出た言葉に自分でも驚く。短いと思っていた結婚生活だったけれど、その時の習慣はまだ抜けずにいた。

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