離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
 彼は説明を求めるかのように、前傾姿勢になった。ここでひるんではいけない。はっきり自分の気持ちを伝えなければ、いつまで経ってもわたしは彼にとらわれたままだ。

「今までお世話になりました。離婚してください」

 わたしはもう一度彼に告げた。こうすることがお互いのためであると信じて。

 彼が眉間に深いしわを刻む。自分が彼にこんな顔をさせているのかと思うと申し訳ない反面、これで彼を解放してあげられるのだという思いもある。

 祖父も離婚には賛成してくれた。この結婚に対する慶次さんの気持ちがわかって憔悴(しょうすい)したわたしを見て、無理強いしたくないと思ったようだ。最後は泣き落としみたいになったが、わたしのワガママで離婚を言い出したので、もちろん彼の不利益になるようなことはないようにと祖父にお願いしている。

 慶次さん、わたしから離婚を切り出すなんてごめんなさい。でもこうすることでやっとあなたは好きな人と一緒に過ごせるようになります。

 好きな人にしてあげられることが離婚だなんてさみしすぎる。それでもなにもできないよりはましだと自分に言い聞かせた。

「わかった」

 ズキンと胸に大きな痛みが走る。今の彼の了承の言葉でわたしたちの関係は終わりに向かいはじめた。

 自分が望んだことだけど、好きな人のそばにいられなくなるのはやっぱりつらい。でもきっとこれを乗り越えたら自分のことを好きになれる気がする。

 なにもできないわたしじゃない。彼の幸せの一端を担える。これはわたしにしかできないこと。

 強がりだってわかっている。でも、こうでもしないと自分を保てない。

 逸らしたくなる目をあえてしっかりと彼に向けた。彼もまたわたしの方を見つめていた。

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