離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
「提出の時期なんだが、俺の立場上、私生活が仕事にも影響を及ぼすことが多々ある。周囲の人にちゃんと話をしてから、提出させてもらってもいいだろうか」

「それは……仕方ないですよね」

 会社の宣伝のため、彼は経済誌や雑誌などのインタビューを受けることもある。また母校で講演活動をするなど、なにかと人目にさらされることも多い。だから結婚について社内でも上層部にしか知らせていなかった。結婚でそれなのだ。離婚となるといい感情を抱かない人だっているだろう。

「最後まで、迷惑をかけてすみません」

 結局彼には、祖父への義理を果たす以外、なんのメリットもない結婚だったのではないかと思うと心苦しくて、書類の提出時期はすべて彼に任せることにした。

「じゃあ、これはこちらで預かっておくから」

「はい。お願いします」

 彼に任せておけば安心だ。当分は色々思い出したりして胸が苦しいだろうけれど、新しく住むところを見つけて、仕事が始まればきっと忘れられるはず。

「ところで、これからのことなんだが。もう荷造りをし始めているのか?」

 リビングに置いてあったわたしの私物が少なくなっていることに気が付いたようだ。

「はい。早い方がいいかなって思って。少しだけですけど。まだ引っ越し先は決まってないですけどね。ネットで見ていいなと思っても、他の人に決まっていたりして……」

 本当は、ぼーっとしていたら泣いてしまいそうだったからなんて言えない。わたしはごまかしながら笑みを浮かべた。

「白木の家に帰らないのか?」

「はい。就職もするしいい機会なので自立しようと思ってるんです」
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