夏の終わり〜かりそめの恋人が、再会したら全力で迫ってきました

「お父さん、どうしたんですか?」

慌てて駆け寄る父の腕を掴み、しがみついた祖父。

「…て……さ…うっ」

「これですね」

少しだけ頷き、なんとか手を伸ばそうとする祖父に代わり、父は、手提げ袋の中を漁った。

中から出てきた薬ケースから、取り出した薬を祖父の口に入れてあげて、母が急いで持ってきた水を口元に持っていき飲ませてあげる父の姿を、私はただ、眺めるしか出来なかった。

薬が効き、落ち着いた祖父に父が尋ねる。

「どこが悪いんですか?」

「…発作を起こしたのを見られては隠しようがないの。胸の病だ。弱みをみせる訳にもいかぬから、薬で治療してきたが、この歳ではな…改善があまり見られん。わしは、もう長くはないのかもしれん。亜梨沙…今日初めて会う爺いの言う戯言を聞く気にならんのは百も承知じゃ。だがどうか久世家を継いでほしい。この通り聞き入れてくれぬか?」

床に正座し、頭を下げて床に額をつけた祖父の体を起こそうとしたが、頑なに動こうとしない。

初めて会う祖父に、この時、初めて家族の情というものが芽生えたと思う。

「もう、わかったわよ。継げばいいんでしょ。その代わり、手術でもなんでもして、できる限り長生きしてよ」
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