夏の終わり〜かりそめの恋人が、再会したら全力で迫ってきました
「本当か?言質はとったからの。後々、無しといわれたら、わしは、お前を恨んで死ぬぞ」
先程まで苦しんでいた人とは思えない軽やかさで、身を起こした祖父は悪代官並みの笑みを浮かべる。その姿に、同情したのは失敗だったろうかと少し後悔した。
私の気が変わらないうちにと、すぐに養子縁組が行われたが、その際、私の方から出した条件は久世家に家族で住むことだった。
父は今更、久世に戻るつもりはないと頑なだったが、
お爺さまの発作を度々目の当たりにした父は、余命わずかと弱音を吐く祖父の側で親孝行をしようと決意したらしい。
そうと決まればあっという間で、家族3人は、都心から離れた緑豊かな山々に囲まれた地に向かった。表面上は、広大な敷地を持つ旧家として暮らす久世家は、時代劇で見る武家屋敷のようだった。
祖父1人と使用人10人が暮らす久世家に、私達3人が新たに加わった。
それから、大学に進学し就職難の中で勝ち取った勤め先を、退職することとなった。
新人扱いからやっと使える逸材になって、出世していくはずだったのに、久世の跡継ぎが働くなど言語道断。久世の令嬢としてお稽古事を嗜むべきだと言い張る頑固爺い、もとい、お爺さまのたっての願いでだ。