夏の終わり〜かりそめの恋人が、再会したら全力で迫ってきました

「…うっ、ん。だいじに、する」

「泣くな」

私の視線に合わせて腰を屈める理玖は、私の涙を拭って辛そうに笑っていた。

辛いのは私だけじゃない。

そう思わされる理玖の笑顔に、泣きながら笑った。

人目も憚らず、唇にキスしてくる理玖。

そんな理玖に応えて、首にしがみつきキスを続ける。

お互いの唇を食み、重ねるだけのキスだった。

離れ難く、何度も唇を触れ合わせる。

その間、理玖は私のうなじに刻んだ歯形を指で撫でていた。

時間が止まればいいのに…

だが、無情に時間はやってきて、船から出発に向けてアナウンスが流れる。

お互いに目を見張り、唇を離し、名残惜しげに吐息を漏らした。

「じゃあね」

「あぁ、またな」

2度と会うこともないのに…
次があるかのように…
約束通り笑顔でお互いに手を振った。

船に乗るなり、待ってたとばかり汽笛が鳴り、船が動きだす。

船尾に移動しながら、理玖と見つめ合う。

ジーンズのポケットに両手を突っ込む理玖の姿が見えなくなるまで、涙を堪えた。

ありがとう…
そして、さようなら…

ひとときの恋だったが、一生の恋だった。

理玖との思い出を胸に終い、久世 亜梨沙として、久世家を任せられる伴侶と添い遂げる覚悟を決めた。
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