夏の終わり〜かりそめの恋人が、再会したら全力で迫ってきました
笑顔の千秋さまに会釈することはできたが、理玖の顔を見ることができない。
「理玖よ…そちはどうする?綱取りはもう始まっておる。土俵に上がるか?闘わず、逃げるか?己の道を貫くのもよかろう。だが、その道を曲げることも時には必要ではないのか?欲しいだけでは、手に入らんぞ」
祖父の話は半分も理解できないが、千堂製薬の権力争いの内容だと深くは考えなかった。
背の高い理玖の肩を叩き、なにやら不敵に笑い発破をかけて通り過ぎて行く祖父に続き、私も理玖の横を会釈して通り過ぎようとした。
その時…「……」、私は目礼で答えた。
そして、祖父の合図で会場のドアが開き、退場のアナウンスと共に、招待客は祖父が通り過ぎるまで頭を下げる様子らしい。
私も、祖父に続いて歩くが、理玖が放った短いセリフに動揺していた。
祖父の退場後は、帰るもよし、食事を楽しむもよし、談話して顔を売るのも自由。
祖父がいると我先にと、何かしらとご機嫌取りが群がるらしく、挨拶後は早々に会場を辞するのは、いつものことらしい。
父と母は、招待客をもてなす為に会場に留まり、祖父の代理を務める。
本来なら、跡継ぎのお披露目をした私の仕事なのだが、祖父は私を連れ出した。