シングルマザー・イン・NYC
希和と完全に終わったとはいえ、今さら葵に俺の気持ちは戻らない。

「お母さん、その話ですが」

「何? 改まって」

「葵とは結婚しません。それが父の跡を継ぐ条件です」

「……あなた、まさかまだあの美容師と」

「調べたんですか、彼女のこと?」

「あなたがプロポーズしてる写真が週刊誌に載ったのよ? 調べて当然でしょう」

「そしてその情報を葵に教えた、と」

「……」

「そんなことだろうと思いました。政治家への転身は、篠田家のためだけでなく、やってみたいという気持ちがあるからです。弁護士の仕事もやりがいがありますが、政治家として国政に携わるのはやはり、魅力的です」

俺もなんだかんだ、母の権力志向を受け継いでいるのかも知れないな。

「だから、本気でやります。でもそれと結婚は別なので。希和とは――彼女とは終わりましたが、今後一切、僕の結婚について、余計なことはしないでください」

「……わかったわ」

母は不服そうな顔で、小さく頷いた。
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