シングルマザー・イン・NYC

『斉藤さん、あの、今部屋に着いたんだけど。よく考えたらまだ早い時間だったなって』

「そうですね」

『いつもだったら、もうちょっとうまく、ええと、なんというか、リードできるというか……なんだけど。斉藤さんが相手だと調子狂……』

篠田さんはしどろもどろで、私は笑ってしまった。

「狂いますか、調子」

電話の向こうで篠田さんも笑った。

『うん、狂う。もし良かったら、今日まだ時間ある?』


三十分後、私たちはリバーサイドパークの花壇の前で落ち合った。
二人の部屋のほぼ中間地点、お互いに徒歩で行ける距離だ。

マンハッタンの西端、ハドソンリバー沿いに細長く続く公園は、川の景色と緑が気持ちよく、セントラルパークと違って地元民が多いこともあり、静かで落ち着いている。

「まさか一日に二回もデー……」

篠田さんは、私に会うなり、言いかけた。

デートすることになるとは、って言おうとしたんだろうな。

多分、篠田さんはモテることに慣れている。

私が説明すると陳腐になってしまうかもだけど、目元は涼し気で、基本はすました感じの表情だが笑うとかわいい感じもするし、無口かと思えば早口で話し続けたり、いい意味で行動に意外性がある。

今だってそうだ。同じ日に二回会おうだなんて。

「俺、これまで自分のことほとんど話してないよね」

おっ、「僕」から「俺」に変わった。

「そうですね、教えてくれたのは、年齢と連絡先と住所くらいですかね…あと、学生さんだと」

「学生なのは一時的に。もうちょっとで終わる」

「?」

「日本では弁護士として働いていて、去年から休職して留学中」

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