シングルマザー・イン・NYC

通りにあるデリの軒先にライラックが並ぶと、ああ、初夏がやってくるなと思う。
一週間くらいだろうか、ライラックが出回るのはごく限られた期間だけだ。

月曜の朝。
職場に向かうニューヨーカーたちを横目に、篠田さんと私が目指すのは「サラベス」。
「ニューヨークの朝食の女王」と称されるレストランだ。

私の休みと篠田さんの講義がない日がちょうど月曜日に重なるので、一緒に朝食をとり、その後ニューヨーク観光をするのが、付き合い始めてからの習慣になっている。

「身分違い」がどう影響するのか心配はあったが、今のところ、うまくいっている。
お互いのこれまでの人生はもちろん、それぞれの業界のことを知らないので、新鮮なのだ。

それに今の篠田さんは学生の身分なので、本人が言うには「仕事してる時より断然、リラックスしてる」のだそうだ。

まだ朝の8時だが、デリやドーナツショップはすでに開店していて、中からコーヒーを持った人たちが次々に出てくる。

外食文化の発達したこの街では、朝、お店で買ったコーヒーと軽食を食べながら出勤する人も多い。いつの時間帯でも、食べ物片手に歩いている人の多さに驚く。

リンゴとバナナは当たり前だし、ドーナツ、ベーグル、ピザ。

おしゃれなお姉さんが、スーパーで買ったばかりのラズベリーをプラスチックのパックから直接つまみながら(洗わなくて平気なのか?)、歩いているのも見たこともある。
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