シングルマザー・イン・NYC
その夜、我が家には静かな修羅場が訪れた。

私が眠ったのを見計らい(ずっと自室で息をひそめていたのだが)、母は、深夜に帰宅した父とリビングで話し合いを始めた。

「ただの不倫ならまだしも……相手が妊娠しているとなるとややこしいわね。選択肢は三つよ」

1.あなたが不倫相手と別れ、不倫相手が産んだ子を認知する
2.あなたが不倫相手と別れ、不倫相手が産んだ子を認知しない
3.私とあなたは離婚する

母の声は抑揚がなく、冷たかった。

父はひたすら母に詫びるのみだったが、母は決して父を許そうとしなかった。

「子供ができた以上、認知はするしかないでしょう。人として最低限、それは必要。そして私は、他の女性との間にできた子供に養育費を払うあなたを許せるほど寛大ではありません」

(えっ……じゃあ……)

二人の会話を、私は廊下の壁に耳を付けてこっそり聞いていた。

「別れましょう。希和はもちろん、私が引き取るわ。この家と相応の慰謝料を頂きます」

母は、曲がったことの大嫌いな性格だ。
中学校の教師で、私を育てていくだけの稼ぎはある。
母が父と別れる決断を下したのは、当然ともいえる結果だった。
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