シングルマザー・イン・NYC
篠田さんは、しばらく口元を手で覆って黙っていたが、やがてその手を膝の上で組んだ。

「希和の気持ちはわかった。傷つけてごめん」

私を見つめる目には、後悔の色。

「どうしたらいいのか……でも諦められない。今日はもう帰るけど」

「私の気持ちは変わらないと思う」

変えちゃいけない。
将来篠田さんに裏切られたら、もっと傷つく。

篠田さんは何も言わず、コートを手に席を立った。

「これは、返すね」

私は指輪の箱を差し出したが、篠田さんは受け取ろうとしなかった。

「いいよ、持ってて。少し時間を置いて、また話そう。もう話したくなければ、仕方ないけど。その時は指輪、売るなり捨てるなり、好きにしていいよ。それはもう、希和にあげたものだから」

篠田さんはドアを開け廊下に出た。

その気配を察したのだろう、アレックスが自室から出てきて、心配そうに私たちを交互に見た。

「アレックス、今日は急にごめん。……希和をよろしく」

篠田さんはアレックスの肩を軽く叩くと、「じゃあ」と静かな声で言い、部屋を後にした。
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