シングルマザー・イン・NYC
「ところでご結婚相手は? ホテルで会ったシノダさん?」

カミーユさんの質問には、もちろんまったく悪気はない。
私たちが別かれた話はしていないのだから。

「いえ」

鏡に映るカミーユさんの眉が少し上がる。

「あら。じゃあ、どんな人と?」

「……結婚しないんです。別れてから妊娠に気付いて」

今度は目を大きく見開いた。

「……まあ……!」

ふり返ったカミーユさんはもちろん驚いた表情だったが、かといって私を憐れむ様子ではなく、その美しいブルーの瞳をきらきらさせていた。

「度胸あるわね。応援する。頑張って!」

そしてまた鏡の方に向き直ると、静かな声で語った。

「私には子供がいないの。欲しかったんだけど、どうしてもできなくて。一人で産んで育てるのは大変だと思うけれど、でも、私もキワの立場ならそうする。きっと素晴らしい経験が待ってるわ。大丈夫だと思うけど、もし困ったことがあったら何でも言ってね」

「ありがとうございます」

カミーユさんの言葉は、私を力づけてくれた。

そしてカミーユさんだけでなく、母もだ。
< 69 / 251 >

この作品をシェア

pagetop