シングルマザー・イン・NYC

「やったじゃないか、希和!」

帰宅したアレックスは、食卓で真剣な表情で書類に目を通していたが、読み終わると、晴れやかな笑顔で言った。

「でも、ケイ・タカヤナギを辞めるのは――」

「これはチャンスだ、辞めて当たり前。ああ、でも日本人はあまり職場変わらないんだっけ?」

「うまくいっている限りはね」

そして私は、ケイ・タカヤナギでうまくやれている。不満はない。

「年明けに産休から復帰するところだし、今から退職を申し出るのは不義理じゃないかな」

「別に俺は気にしないけど。ローゼンタール夫妻の出資だよ? それにプライベートサロンでカミーユさんと彼女の友人知人を中心に営業するだけでいいと書いてある。俺たちの基本給は保証されてるし。そのうえで、彼女たちの利用に支障をきたさない範囲でなら、俺たちの判断で客を増やしてもいいと書いてある――最も、カミーユさんの人脈を考えたら、客を増やす努力はいらないんじゃないかと思うけどね」

アレックスは一気に話した。
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