シングルマザー・イン・NYC
――仕事は押した。
クライアントである日本企業の現地法人の投資案件の交渉のために赴いたのだが、ほぼまとまっていたはずの契約内容に、相手企業が不満を述べてきたのだ。
そのため、交渉はまとめずにお互い持ち帰って検討し直すことになり、その結果俺は、重役達と数時間にわたり、検討を重ねることになった。
ホテルにチェックインするはずだった6時はとうに過ぎ、ケータリングの夕食(紙パックに入った中華料理だ)をとりながら、落としどころを見つけるための議論は続いた。
腕時計を見ると――8時か。
「篠田先生、遅くまですみません」
「いえ、仕事ですから。それにせっかく出張してきたんですし、お役に立てて嬉しいです」
「でも、お疲れでしょう。今日到着したばかりで長時間の仕事は――」
申し訳なさそうに言ってはいるが、俺をここで帰す気はないだろうに。