シングルマザー・イン・NYC
希和とアレックスが住んでいたアパートを出ると、俺はダメもとで希和にメールを送った。
結果は想像した通り、エラーで戻ってきた。
何処かの美容室のホームページにスタイリストとして掲載されているのではと、希和の名前で検索もかけたが、ヒットはない。意図的にすべての連絡先を変えてしまったのだろうか。
万事休す――か。
希和に会って話せば何とかなる、と思っていた自分がひどく滑稽だった。
あの時、希和ははっきり俺と別れる意思表示をした。
けれども俺は、お互い嫌いになったわけでなし、時間が経てばまたチャンスはあるのではないかと、心のどこかで期待していたのだ。
それが今回の出張や、いよいよ父の跡を継いで政治家に転身することを考えたら気持ちが盛り上がって――これ以上考えるのは良そう、惨めになるだけだ。
アパート前の通りからブロードウェイに出ると、角のビストロは、もう夜も遅いというのに賑わっていた。ここは人参のソテーとフレンチフライが旨かったな。
タクシーを拾うために道路を渡ると、そこには女性ホームレスが毛布にくるまって眠っていたが、俺の足音が気になったのだろうか、目を覚まし、むくりと起き上がった。