シングルマザー・イン・NYC
目が合う。

「――あなた」

驚いた。

このホームレスのことは、希和とこの辺でデートした時に何度も見かけていたし、時々小銭をカップに入れていたのだが、彼女が口をきいたことは皆無だったのだ。

「久しぶりね」

「一年ぶりに戻ってきたんだ――二泊だけ、出張で」

俺はコートのポケットから一ドル札を出し、屈んで彼女の前に置かれたカップに入れた。

「いつもありがとう」

「どういたしまして」

「あの子に会いに来たの?」

――なんでわかるんだ?

「あたしはね、勘が鋭いのよ」

「会えなかったんだ。どこかに行ってしまった」

彼女はこくりと頷いた。

「どうしても会いたい? どういう結果になっても後悔しない?」

「ああ」

彼女は少し考えた後で、言った。

「最近、見かけたよ」

「……え。君」

「ジェニー」

「ジェニー。俺は樹。ジェニー、どこで彼女を?」

「セントラルパークの東側、グッゲンハイム美術館近くの桜並木」

「時間帯は」

「夕方。6時くらい」

「他に情報は」

「ない。それだけ。幸運を」

そう言うと、ジェニーはごろりと横になり、毛布をかぶった。
< 97 / 251 >

この作品をシェア

pagetop