セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「花那、待たせて済まなかった。一度外に出ると中に入るのがあんなに難しいとは思っていなくて……」
どうやら颯真はイルカショーの会場に戻れずに、周りの人が出ていくまで待っていたらしい。申し訳なさそうなその顔は嘘をついているようには見えない。
「……颯真さん、戻ってきてくれたのね」
「戻ってくるに決まってるだろう? 俺は花那の……夫なんだから」
戸惑いながらも颯真は自分が花那の夫なのだと口にする。そんな颯真を見て花那も少しテレてしまい顔を俯かせた。
――記憶が無くてもこうして俺と花那は上手くやっていけそうな気がする。でもそれはあの日の花那の気持ちを裏切る事になるだろう。これから先、俺はいったいどうすれば……
颯真にとって五年間共に暮らした花那の事を、そう都合よく忘れる事なんて出来るわけもなく。
今、傍にいてくれる花那に心が揺らされている事への戸惑いばかりが膨れ上がっていく。
「そうよね。ごめんなさい、変な事を聞いて……」
そのうえどこか儚げに見える花那を、そっと抱きしめてあげたくなる気持ちを抑えるので必死になって。
愛情を与えられず育ち、自身も与え方を知らない颯真はどうする事も出来ず花那に「傍にいる」とだけ伝えたのだった。