ひとつ屋根の下、憧れモテ王子は甘い愛を制御できない。


口の端に生暖かいものが触れて。
ゆっくりと離れた。


目の前にはニヤッと、勝ち誇ったような笑顔。


信じがたい状況に呆然としていると、追い討ちをかけるように。


「……は?なにしてんの?」


教室のドアの方から、春樹の声がして。


その日のあと、何度も誤解を解こうとしたけれど、春樹は聴く耳をまるで持ってくれなくて。


それから俺は完全に春樹に無視されるようになり。


そんなある日、靴箱から靴がなくなって。
校舎を探し回っていたら、ゴミ箱に自分の靴が捨てられていたのを見つけた。


精神的に限界に来ていた俺は、もう春樹の顔しか浮かばなくて。胸が張り裂けそうな思いになったのをよく覚えている。


最悪だった中学生活をなんとか終えて卒業することができ。高校に上がってから、共通の友達を通して俺の連絡先を知ったらしい春樹からメッセージが届いて。


彼は当時のことをたくさん謝ってくれた。
有川さんから本当のことを聞いて、自分の勘違いだったと知ったと。


俺の靴を捨てたのも自分で、あの時は俺に裏切られたって気持ちでいっぱいだったこと。


春樹から何度も謝られて、俺の中で過去の話になっていたものの、大好きな子の私物があそこに置かれているのを見て、あの頃の痛みが蘇ってしまった。


だから咄嗟に、嘘をついた。


捨てられてるって聞かされるよりも、隠されてたって聞いた方がマシかと思ったから。



< 222 / 277 >

この作品をシェア

pagetop