エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
(私が入ったことで、仕事をしにくくさせていたら申し訳ない……)

どうしたら普通に接してもらえるだろうと、友里は困り顔になる。

けれども山内のように、低姿勢でいられる方がマシなようだ。

山内に連れられた友里が、検査部に採血スピッツを出しにいき、戻ってきたら、ナースステーションの入口で、看護師三人の雑談を聞いてしまった。

「理事長の娘、意外と腰が低いね。大人しくて拍子抜け」

「続くと思う?」

「どうかな。生活がかかっているわけじゃないから飽きたら辞めそう。いいよね。お金持ちのお嬢様は」

悪口とまでは言えないが、たっぷり嫌味が込められている。

三人の看護師は、友里が足を止めている出入口に背を向け、並んで注射や点滴の準備をしていた。

友里が戻ってきたことには気づいていない。

山内は巻き込まれたくないと思ったのか、「ちょっとお手洗いに……」と逃げてしまい、友里もゆっくりと片足を引いた。

今、中に入れば、陰口を聞いてしまったことに気づかれ、関係がギクシャクしそうな気がしたのだ。

けれども友里まで逃げる必要はなさそうだ。

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