エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
一大決心をしてお願いごとをしに来たためだ。

「それで?」と話を促す父に、友里はゴクリと唾をのんでから口を開いた。

「私、働こうと思うんです。色々な経験をしてみたいの。お願いします。働きに出ることを許してください」

友里は生粋のお嬢様だ。

規律の厳しい女子高、女子大で恋愛とは無縁の学生生活を送り、卒業後は一年と三か月ほど自宅で料理をしたり、以前からの習い事に通ったりするだけの毎日である。

いずれ嫁にいくのだから、働く必要はない。花嫁修業をしていろというのが、父の指示であった。

進学先も、付き合う友人も、なにもかも父親に決められてきた人生。

このままでいいのかと迷うようになったのは、母の死がきっかけである。

母は、友里が高校生の時にすい臓癌で亡くなった。

すい臓は沈黙の臓器と言われており、癌がかなり進行しなければ症状に表れない。

気づいた時には手遅れで、外科医である友里の父でも、手の施しようがなかったのである。

その母が亡くなる前に、友里にこう言った。

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