エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
上衣のみ、水色の手術着姿の彼。

今日は二件、手術の執刀予定だと言っていたので、今は合間なのかもしれない。

目が合うと、雅樹は微かに口角を上げて微笑んでくれた。

(久保田さんとのやり取り、見てたの……?)

友里がこの病棟に馴染んでいることに、『よかったな』と言いたげに見えて、友里は頬を染めた。

ふたりが視線を交わしたのは、ほんのわずかな時間だけで、雅樹は医師デスクの方へ。

立ったままPCを操作し、血管造影の画像をチェックしている。

(雅樹さん、お昼ご飯は食べたのかな……)

夫婦で交互に作っているお弁当は、今日は友里が当番だった。

雅樹の好物のカニクリームコロッケがメインで、タコさんウインナーに卵焼き、アスパラのベーコン巻き、塩ゆでしたスナックエンドウ、ひじきの煮物など、栄養にも彩にも気を配った。

自分ひとりのためのお弁当なら、こんなにおかずの種類を多くしない。

雅樹に食べてもらうお弁当だから、頑張ったのだ。

雅樹の背を数秒見つめていたが、振り向いてくれることはなかった。

お弁当を食べたのか、問いかけることもできないのが寂しい。

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