エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
(結婚を秘密にしてほしいとお願いしたのは私だもの……)

仕方ないことだと自分に言い聞かせた友里は、持ち場に戻る。

カウンター前のクラーク用の椅子に座り、付箋を取りだした。

久保田に頼まれたことを忘れないようにメモして、PCの端に貼る。

こうすると目に入りやすく、忘れることがない。

やり終えたら付箋を剥がして捨て、あとどれくらいの仕事が残っているのかわかりやすくもある。

今日のクラークはひとりで、話し相手もなく、友里は静かにデスクワークを始めた。

後ろでは看護師たちのカンファレンスの声が聞こえる。

カンファレンスとは、看護計画などについて意見を交わす小会議だ。

そのまま数分が経過したところで、友里は誰かに肩をポンと叩かれた。

振り向く前に、耳元で囁かれる。

「弁当うまかった。ありがとう。今夜は急患が入らない限り、早く帰れそうだ」

たちまち胸を高鳴らせる友里。

パッと顔を輝かせて振り向いたが、雅樹は友里に背を向けており、スタスタと足早にナースステーションから出ていった。

(お弁当、美味しく食べてくれたんだ。嬉しい……)

< 56 / 121 >

この作品をシェア

pagetop