エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
友里の危惧した通り、ナースステーション内がたちまちざわついた。

医師は華衣しかいないが、看護師は夜勤者への申し送り中で、十数人がここにいた。

華衣の声が大きかったせいで、友里と雅樹が夫婦関係にあることが、全員の耳に届いてしまったようだ。

「結婚だって! 嘘、ショック」

「絶対に理事長先生が絡んでるよね。政略結婚みたいな?」

「香坂先生、可哀想。嫌じゃないのかな」

「しっ、友里ちゃんに聞こえるよ」

看護師長だけは最初からふたりの結婚を知らされていたので、秘密が漏れてしまったことに慌てている。

「雑談はやめなさい。仕事中ですよ!」

看護師たちに注意してくれて、申し送りが再開したけれど、友里の冷や汗は止まらない。

(どうしよう。看護師さんたちの視線が痛い……)

華衣は鈍感なのだろうか。

青ざめる友里やこちらをチラチラ見る看護師たちに構わず、「結婚式はしないの?」と普通の声量で問いかけてきた。

友里は答えることができない。

「すみません。私、帰らないと。お先に失礼します」

ペコペコと頭を下げ、逃げるようにナースステーションから抜け出した。

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