エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
雅樹を含め、医師たちとの業務上の接点は薄く、華衣とも挨拶程度の会話しか交わしたことがなかったからだ。

「華衣先生、なにかご用でしょうか……?」

立ち上がり、かしこまって尋ねた友里に、華衣は笑みを強めて言う。

「聞いたわよ。香坂先生と結婚したんですって? 名札は旧姓のままなのね。もう、どうして隠すのよ。おめでたいことじゃない」

「えっ……」

(どうして知ってるの?)

驚く友里の顔を見て、華衣がクスリとする。

「香坂先生が教えてくれたのよ」

「雅樹さんが!?」

「どうして私に教えたのか不思議なの? 秘密にしているのが面倒になったんじゃない?」

友里はショックを受けていた。

夫婦関係を秘密にしているのは、半年後に離婚するかもしれないからだが、雅樹に憧れる女性職員の嫉妬が友里に向くのも想像にたやすい。

雅樹に口止めした時、『わかった。俺からは誰にも話さないよ』と約束してくれたというのに、なぜ華衣に話してしまったのかと友里は顔を曇らせた。

(華衣先生の言うように、面倒くさいと思ったの? 私が嫉妬されて陰口を叩かれるくらいは、なんとも思わないのかな……)

< 58 / 121 >

この作品をシェア

pagetop