エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
階段を駆け下りながら、目を潤ませる。

(雅樹さんは私のこと、どうでもいいのかな……)

仕方なく始まった結婚生活は、あっという間に五か月が過ぎようとしている。

職場ではクールな雅樹は、自宅では優しく声をかけてくれる。

その笑顔に胸をときめかせ、大きな手で頭を撫でられたら、守られている気がしてホッとできた。

男性を知らなかった友里に、抱かれる喜びを教えてくれたのも彼だ。

明日が休日という日は、一緒のベッドで眠りにつくのが習慣になっていた。

気づけば友里は雅樹に夢中で、愛情が芽生えたのを自覚している。

(私、調子にのっていたのかも……)

雅樹に大切にされていると感じ、愛されているような気になっていたが、勘違いだと悟る。

(大切にしてくれるのは、私が理事長であるお父さんの娘だから……)

階段を一気に下りた友里は、一階のフロアに足をつけて、まだ着替えていないことにハッと気づいた。

更衣室は二階だ。

「私、なにやってるの……」

ふうと大きく息をつく。

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