エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
(約束の半年まで、あとひと月くらい。愛があるのは私だけで、雅樹さんは……。愛されていないのに、結婚生活を続けるのはつらい……)

友里は自分だけが恋に溺れていくのが怖くなった。

揺れ動く心を抱え、重い足取りで更衣室へ引き返すのであった。



帰宅して四時間ほどすると、雅樹も帰ってきた。

いつもより早いとはいっても、二十二時を過ぎている。

「お帰りなさい。お疲れさまでした」

「ただいま」

玄関まで出迎えた友里を、片腕で抱き寄せた雅樹が、額に口づけた。

キスされているのはわかっていても、ぼんやりしている友里は無反応。

すると心配そうに眉を寄せた彼に、顔を覗き込まれる。

「具合が悪い?」

「え? 大丈夫ですよ。どうしてですか?」

「いつもの君は恥ずかしそうにするのに、今日はやけに冷静だな」

「あっ……」

額であっても、雅樹にキスされれば、ウブな友里はいつも頬を染める。

けれども今日は心ここにあらず、といった心境で、照れることができない。

雅樹が華衣に秘密をバラしてしまったことが、ずっと引っかかっていた。

明日は休日だが、明後日の勤務日が怖くもある。

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