エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
雅樹に憧れる女性スタッフから敵視されそうな予感がしていた。

それでも――。

(雅樹さんには相談できない……)

『秘密にしているのが面倒になったんじゃない?』と華衣は言った。

それが当たっているとしたら、相談すればさらに面倒だと思われてしまいそうだ。

理事長室で初めて会った時の雅樹は冷たい印象で、あの時のように友里などどうでもいいという顔をして、邪険にされたら怖いという思いもある。

今日の雅樹は午前中の外来と、午後は六時間越えの手術を一件担当していた。

過酷で神経がすり減るような仕事をしてきた彼を、責めたくもない。

(バレてしまったことを元に戻すことはできないもの。それは仕方ないと思わないと。女性職員からつらく当たられることがあったとしても、自分でなんとかしないと……)

雅樹の眉間の皺が解けないので、友里は大袈裟なほどの笑みを作った。

「ちょっと考え事をしていただけなんです。あ、大したことじゃないので心配しないでください」

明るい声でそう言ってから、キスされた額に手をあて、「恥ずかしがらずにすみません」と真面目に謝ったら、雅樹がプッと吹き出した。

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