エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
痛いほどの視線を感じて、顔を俯かせてしまったら、雅樹に心配された。

「俺の帰宅時に、考え事をしていたと言っていたな。悩みがあるなら話してくれないか?」

その声が優しかったので、昼間のことを話してみたくなったが、思い直してやめる。

(面倒くさいと思われたくない……)

友里は解かれた衿のリボンを握りしめて顔を上げた。

適当な言い訳を探して口にする。

「悩むというほどではないんです。ええと、その……少し、太ってしまって……」

結婚してから二キロほど体重が増えたので、まったくの嘘というわけではない。

雅樹の手料理が美味しすぎるからか、それとも彼のためにお弁当を作る時、何度も味を確かめてお腹いっぱいになるせいかもしれない。

咄嗟に思いついた言い訳であったのだが、口にしてしまってから赤面した。

(太ったなんて恥ずかしい。他の理由を探せばよかった……)

けれども、ごまかしとしては成功した模様。

「体形を気にして、裸を見られたくないと思ったのか」

雅樹が納得してくれて、笑いながら友里を抱きしめた。

「友里」

耳元で名を呼ばれると、ピクリと体が反応してしまう。

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