エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
これまでになくしたものは採血、処置、薬品などの伝票や、忘れないように看護師からの指示を書いてPCに貼っておいた付箋など。

入力したつもりの患者情報が消えていて、『保存を押し忘れたんでしょ』と昨日も看護師長に叱られたばかりである。

叱責の言葉はそれだけで、看護師長はすぐに奥に引っ込んだが、友里は落ち込んだ。

(体調を理由にしたらいけないよね。ミスばかりで情けない……)

「元気出して。処置伝票くらい大丈夫よ」

そう言ったのは華衣だ。

ナースステーション内をつかつかと歩いた彼女は、点滴交換の準備に忙しそうな看護師を捕まえると、「処置伝票、もう一度書いてあげて」と指示をした。

その看護師にジロッと睨まれ、友里は肩を揺らす。

華衣がナースステーションから出ていくと、案の定、声を潜めない陰口が始まった。

「『処置伝票くらい』だって。他にやることなかったら、それでいいけど、こっちは忙しいのに」

「これだからお嬢様は……」

華衣が言ったことまで友里のせいにされ、非難の声が耳に痛い。

「申し訳ありません……」

届かないほど弱々しく謝る友里であった。




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